本題に入る前に、前回の記事の補足を少々。
前回の記事で、カンマの後の文で主語が変わっているとの疑いがある場合、「これは」という主語を補って訳文をつくるべきとのお話をしました。これにはわけがあります。
中国語にはカンマで区切った文の前後を比べてみると、後ろの文は直前の語句または文を主語に取るケースが多いからです。私自身は中国語学科で正式に中国語の文法を勉強したことがないので、このことを文法的に説明することはできません。また、受けるものが語句なのか、文なのかは実は私自身も決めかねるケースが多いため、「逃げ」の手段で「これ」という言葉を使っているというわけです。
さて、これまで2回にわたって主語編①②として中国語の原文から、日本語らしい訳文をつくるための「秘訣」を主語という視点からお伝えしました。おさらいしてみますと・・
主語編1→主語をはっきりと明示してあげること
主語編2→潜在的にある「ウラの主語」をしっかり見つけること。カンマごとに主語を検証する。
となります。これらを頭の中に入れつつ今回はその応用編と行きましょう。
次の文に注目してください。当該記事の2段落目の下から3行目の文です。
台灣可在國際上獲公平對待,增強競爭力,對台灣經濟有幫助,也對台日之間的貿易有幫助。
ここにあるカンマから「對」以降の主語はどれなのか考えてみましょう。主語を「台灣」としてしまうと、「台湾は台湾経済にとって助けになる」となり、ちぐはくな文になってしまいます。これはやはり「台灣可在國際上獲公平對待,增強競爭力」全体が主語であるという風にみるべきです。これは、今回の記事の最初に解説したことと同じですよね。ですから、
台湾は国際的に公平な待遇を勝ち取り、競争力を増強できる。これは台湾経済にとって助けになるし、台日間の貿易にとっても助けになる。
となります。
つぎの文はどうでしょうか記事の1段落目にある文です。
中国外交更加咄咄逼人,在维护自身利益时有挑战当前国际秩序倾向
この原文の訳としてどれが一番日本語らしいと考えますか?
①中国の外交は一層居丈高になっており、自身の利益を擁護する際に現在の国際秩序に挑戦する傾向がある。
②中国の外交は一層居丈高になっており、
これには自身の利益を擁護する際に現在の国際秩序に挑戦する傾向がある。
③中国は、外交面
において一層居丈高になっており、自身の利益を擁護する際に現在の国際秩序に挑戦する
傾向にある。
「在」以降の主語が何か、何を主語とすることが適切かということを考えるのが重要になってきます。「中国」か「中国外交」か「中国外交更加咄咄逼人」か。
恐らく「中国」か「中国外交」か迷うかと思います。「中国外交」が~の「傾向にある」とは言うかもしれませんが、「中国外交」が「居丈高になっている」との文は違和感を感じます。ここはやはり、「傾向にある」と「居丈高になっている」どちらにも通用する「中国」という言葉を主語に据え、最初から最後まで「中国」を主語に通すことが一番日本語らしい文になると考えます。なので、私は③を選びました。
次の文は主語が明確ではないケースです。
当前港澳台海外统战工作要在坚持做好争取人心、凝聚力量,强化代表人士队伍建设等基础工作
これを「現在の香港・マカオ・台湾・海外統一戦線工作は」、~「基礎工作をしっかりおこなわなければならない」としてしまうと、たぶん皆「?」となるに違いありません。事物や抽象物を主語にとって「ならない」と表現するのは日本語の世界ではありえないからです。
この講話をしている人は当事者なのですから、「ならない」の主語は「われわれ」であるはずです。しかし、ここでは「われわれ」という言葉はありませんので、敢えて省略します。リスク管理の観点からです。なのでこうなります。
現在の香港・マカオ・台湾・海外統一戦線工作
「においては」、あくまで人心を勝ち取り、力を結集させ、代表関係者の隊列建設を強化するなど基礎工作をしっかりおこなわなければならない。
最後の文といきましょう。最初の質問の3段落目の文に注目してください。
中方进行岛礁扩建工程经过了科学的评估和严谨的论证,坚持建设和保护并重,有严格的环保标准和要求,充分考虑到生态环境和渔业保护等问题,不会对南海的生态环境造成破坏
ここで頭を抱えてしまいました。「ウラの主語」で見ると、「坚持」以降の主語は、「~问题」までは「中方」で通用するのですが、「中国側は」、「南海の生態環境の破壊に至ることはないだろう」とはロジック的に不自然。やはりこれは「主語不明確」との判断で「南海の生態環境」を主語に持ってくる文型に変換することが適切でしょう。
中国側は島・岩礁での拡張工事を行うに当たり、科学的な評価と厳格な論証を行っており、建設と保護を共に重視することを堅持し、厳格な環境保護基準と要求を備え、生態環境や漁業保護などの問題を十分考えており、南海の生態環境
が壊されることは
ないだろう。
さて3回にわたって日本語らしい文について主語の観点から見てきましたが、、日本語らしい文の条件とはなにか。その1つは主語編①で述べたように「主語を明示してあげる」ことです。これは裏返せば要するに、
1.主語を整えることができる場合(ベストな主語を見つけられる場合)は最初から最後まで同じ主語で通すこと(これが日本語としては一番)。
2.主語が変わるなら変わった後の主語を明示してあげること。必要なら文自体をぶった切る。
3.変わった後の主語が明確ではない場合は、受動態に変換するなどして工夫すること。
という3点に総括できます。これらを意識して訳していけば、かなり、日本語として通りのいい訳文を作れるのではないでしょうか。
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